災害時にGPS情報は開示できる?熱海市の土砂災害に見る、人命救助におけるGPSの利用について

2021/07/08

お役立ち

t f B! P L
熱海市の土砂災害に見る、Twitterで話題となった人命救助におけるGPSの利用について

はじめに

熱海ならびに土砂災害で被害に遭われている皆様に心よりお見舞い申し上げます。


熱海市で起こった土砂崩れにより、家屋が倒れ、多くの方が行方不明となりました。

そんな中、通信事業者にGPS情報の開示を求めても対応してくれなかったという投稿をTwitter上で見かけました。そこで、人命救助時のGPS情報の活用は現在日本ではどのようになっているのかまとめてみました。

日本の災害時のGPS利用について

日本では災害時GPS情報を開示請求を行うことができます。

一方で、注意点、並びに議論すべき点もあるため、順を追ってGPS情報開示可能となるまでの歴史を紹介します。

人命救助におけるGPSについての議論開始

2013年、総務省は緊急時における携帯電話の位置情報の活用需要の高まりを受け、「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会」を招集します。


この検討会の趣旨は、位置情報の取扱いの現状や電気通信事業者によるGPS位置情報の緊急時における取扱いのための方策等について検討し、ガイドラインの見直し等必要な措置を講ずるというものでした。

緊急時のGPS利用についての議論の内容

この「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会」において議論されたことを簡単に解説します。

位置情報の種類

位置情報には、①基地局、②GPSと2つの情報ソースがあります。


基地局

通信を行うために電気通信事業者が取得している、通信を行う基地局に関わる情報です。
電気通信事業者は一般に警察、消防、海上保安庁からの提供要請があった場合に限定して基地局に係る位置情報を提供しています。
この情報を提供されると大まかなユーザーの位置を把握することができます。


GPS

GPS情報は通信を行うために必要な情報ではないことから、電気通信事業者は通信時にGPS情報を取得していません。一方で、緊急時にはキャリアが提供しているアプリ等を通じて、GPSを取得することができます。
この議論が始まった2013年以前は災害時に人命救助のため、GPSを取得し、第三者に提供することはできていませんでした。

GPSデータの課題点

GPS情報は基地局情報よりもより詳細な位置情報を把握できてしまうため、位置情報だけでなく、個人の趣味嗜好まで推察できてしまうため、プライバシー保護の観点で取り扱いに注意が必要という議論がなされています。


具体的には以下が起こりうる例として挙げられています。
・配偶者に対して暴力に及んでいる者が、暴力を受けている被害者の所在を把握するために、警察等の機関に対して虚偽の申告をし、そのGPS位置情報が取得・提供されてしまう場合
・債権回収業者が、債務者の所在を把握するために、虚偽の救助要
請をする場合

GPS情報の活用方針

そして、議論はGPS情報の活用方針へと移っていきます。
活用方針としては、課題点も含めて以下のようにするべきと方針を打ち出しています。


GPS情報を提供できるケース


  1. 要救助者の生命又は身体に対する重大な危険が切迫している
  2. 要救助者を早期に発見するためにその者に係るGPS位置情報を取得することが不可欠であるGPS情報の提供を受ける事業者を警察、海上保安庁、消防等の機関に限定する


GPS情報提供における手順

電気通信事業者においては、救助機関との間で、適宜協議を行い、GPS位置情報の取得・提供が適切に行われるよう、運用ルールの策定や、対応部署の集中化、関係部門への周知等、必要な整備を行うことが望まれる。

ガイドライン改正

上記の検討会により議論がなされた後、同年2013年9月にはガイドラインが改正され、
ガイドラインに以下の文言が追加されました。


電気通信事業者は、前項のほか、救助を要する者を捜索し、救助を行う警察、海上
保安庁又は消防その他これに準ずる機関からの要請により救助を要する者の位置情
報の取得を求められた場合においては、その者の生命又は身体に対する重大な危険が
切迫しており、かつ、その者を早期に発見するために当該位置情報を取得することが
不可欠であると認められる場合に限り、当該位置情報を取得するものとする。


これにより、適切な手段を踏めば、緊急時の人命救助のため、GPS情報の開示を行うことができるようになりました。

さいごに

今回、被害者の家族であってもGPSを用いた位置情報の開示がなされないなど、Twitter上に投稿されていることを見ました。


前述で議論がなされているように、被害者の不利益になる可能性がある開示は制限しつつ、救助機関におけるGPSデータの活用は行えるようです。


歯痒くはあるかもしれませんが、上記を理解しつつ、救助機関に対応を求めていければと思います。また、今回の救助活動においてGPS情報は利用されたかどうかも気になる点ですので、今後確認できましたら、本記事を更新していきたいと思います。



QooQ